BOOKMAN

TAKASHI KANEKO

Entries from 2020-01-01 to 1 year

市場と僧院

今から9年前、私がまだ大学院生の時のことである。 修士論文を書き終え、卒業を控えている私に、先輩が餞はなむけの言葉をくれた。 「僕は僧院にしか生きられない人間だけど、兼子くんは賑やかな市場バザールで生きる人間なんじゃないかな」 彼は今では大学…

驟雨

今日は休日。正午過ぎに目を覚ます。ひさびさに長く、深く眠ったような気がする。先日の夜勤で睡眠相が崩れて以来、連日、半醒半睡で過ごしていた。睡眠不足になると、人は抑鬱的になる。平たく言うと、悲しく、怒りっぽくなる。自他問わず人を責めるように…

酒・女・文学

ヨハン・シュトラウス2世の円舞曲ワルツに「酒・女・歌」というものがある。私は若い頃、円舞曲はほとんど聴かなかった。もっぱら、交響曲ばかりで、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、ジャン・シベリウス、リヒャルト・シュトラウスなど、孤独、闘争、…

悪酒

酒が急に飲めなくなった。 飲んでもすぐに酔ってしまうし、それも大してうまくないのだ。身体、とりわけ肝臓がSOSを発しているのではないか。 普段、飲んでも顔が赤くならないので、自分は酒に強いものだと自認していたが、案外、脆弱なのではないか。……心当…

もう一度

「よし。この人生をもう一度!」フリードリヒ・ニーチェの有名な言葉だが、私は詳しい出所は知らない。おそらく、『ツァラトゥストラかく語りき』の永劫回帰の件くだりだと思うが、今、学問したい気持ちが高まっているので、学生のころ読んだまま放って置い…

新潟の人

夜勤明け、無性に酒が飲みたくなる。 単純に喉が渇いているのかもしれない。しかし、もっと深い所では、過酷な労働で蓄積された澱のようなもの——肉体的には乳酸であり、精神的には罪の意識——を酒で洗い流したいのかもしれない。やはり、酒には浄化作用が、汚…

実験精神

昨夜は睡眠不足に加え、へとへとに疲れ切っていたので、酒も飲まずに泥のように眠った。ただし、抗精神病薬のジプレキサは飲んだ。 世間では新型コロナウイルスに対する既存の治療薬の保険適用、新薬の開発が急がれている。私もこれは大事な仕事だと思うし、…

鳥の水炊き

当ブログ「COMPOSITION」へのアクセス数が1,000回を更新した。1日平均10回未満、多くて10数回のPVである。お世辞にも人気ブログとは言えない。読者は不特定多数ではない、私の友達である。有り難いことだ。 ブログを始めた動機は私なりに真剣だった。それな…

アイデンティティ・クライシス

先日、職場でテレビを観ていたら、オリンピックの日本代表選手が、新型コロナの不況でスポンサー収入が激減、運送業のアルバイトを始めたことを明らかにした。彼はインタビューに対して、自身のアスリートとしての意識が危機に曝されている、と沈鬱な面持で…

クラコフの夜の暗さ

会社から与えられた2日間の休日をもっぱら読書にあてている。疫病のために図書館が休館になので、近頃の私は本とCDをネットで買いあさっている。床にもテーブルにも書籍がうず高く積んである。この積読の山を崩すことが今年の目標である。要らない本は売るか…

深夜営業

私の職場ではシフトが4つに分かれている。7早(7:00-16:00)、日勤(9:00-18:00)、11遅(11:00-20:00)、13遅(13:00-22:00)、夜勤(22:00-7:00)。私はゆっくり朝寝ができる13遅が好きなのだが、勤務後に同僚と落ち着いて飲み、食い、語ることができない…

読書と仮眠

0時頃に目を覚ます。21時頃に布団を敷いて眠りこけてしまったらしい。夢を見た。舞空術で空を飛ぶような、荒唐無稽な内容だったが、登場人物は大概、実在していた。現実に繋がる、少し怖くて、悲しい夢だった。しばらく起き上がることができなかった。 机の…

飲酒と痛風

夜勤中、左足の母指球が痛いことに気づく。これで2回目、おそらく痛風だ。去年の12月だろうか。その日も夜勤中に同じ所を痛めた。母指球が痛いと踏んばれないから、冷や冷やしながら利用者をベッドから車椅子に移乗した。びっこを引きながら、やっとの思いで…

Y先輩のスタイル

築地の出版社で派遣社員をしていた頃のことである。記者ライター、編集者エデイターなど出版業界の花形になれなかった私は、業務部と呼ばれる、いわゆる生産管理部門で、書籍、雑誌の用紙の選択、計算、発注、バーコードやISBNなどの法文の校正など、編集以…

閉ざされた21世紀

小岩のバーで飲んでいた時のことである。一人の客が会計を済ませて席を立った。酒に酔っているにもかかわらず、彼は無表情で、口は真一文字に結ばれていた。当時はマスクを着用することが一般的ではなかったのだ。 バーテンダーが言った。「また来てください…

病気と成長

16時に起きた。目覚めるとすでに夕方である、という事実にいささかショックを覚えるが、少し前の不眠の日々を思うと嘘のようである。夜も昼も眠ることができず、衰弱していたのである。 最後に精神科を受診したのは4ヶ月くらい前のような気がする。当然、処…

街はふるさと

坂口安吾の小説に『街はふるさと』というものがある。安吾の小説は、文学研究者からは「ファルス小説」と呼ばれている。作品を書くにあたって、ノートを取るなど、あらかじめ入念な準備をするのではなく、衝動、本能、成行、偶然に任せて一気呵成に書くので…

趣味は読書?

職場の同僚から、こんな質問を受けた。 「兼子さんの趣味は読書じゃないの?」 「読み書きは趣味じゃないよ。私に趣味はないよ」 「趣味は読書」と聞くと、一瞬考えこんでしまう。本を読む行為、これは趣味と言えるのだろうか? 小説、詩集、歌集、句集など…

二〇の頃

どんなときも どんなときも 僕が僕らしくあるために 「好きなモノは好き」と 言える気持ち 抱きしめてたい 槇原敬之「どんなときも。」 二〇の頃だったろうか。母親が図書館から、80年代、90年代ベストソング、というような、アンソロジーを借りてきた。その…

あしたの工事

徹夜でくたびれた肉体を 万年床にうずめると キー バタン ザッザ 自動車が停まった 人間が歩きだした 隣の部屋の住人は1ヶ月前に出ていった 事情は 知らない ギィ ガチャン 隣の部屋のドアが開いた 二人の男の話し声 ルームシェアだろうか 2LDKだからできな…

雪と砂

海泡石―歌集 (塔叢書)作者:三井修出版社/メーカー: 砂子屋書房発売日: 2019/07/01メディア: 単行本 三井修さんは私の短歌の、文学の先生の一人である。それゆえ、私が彼の作品を評論するにおいて、多少の私情が入り込む余地があると思うが、それも致し方ない…

椅子

書斎の椅子を台所用の折りたたみ椅子に変えた。それまでの書斎用の椅子は会社の寮を出て、所沢で初めて一人暮らしをしたときに買った椅子だ。19歳の開高健は家出して、女の家に転がり込むときに愛用の机を持参して行ったらしいが、机と椅子というのは、家族…

Anytime Anywhere

Microsoftの共同創業者の一人、ビル・ゲイツは意識的に〈ハードコア〉と呼ばれる生活を送っていたらしい。それはコーラをがぶ飲みしながら、昼夜かまわず仕事を続ける。疲れたら寝る。ある意味でシンプルな生活である。朝、彼の秘書は目撃している。「たいへ…

贈物

2019年の年末は実家で過ごした。30日はスキヤキを、31日はおせちとケーキをごちそうになった。それに会津田島の銘酒〈國権〉も。私においしいものを食べさせてあげたい、飲ませてあげたい、という両親の思いがひしひしと感じられた。 www.kokken.co.jp 実家…