Reconguista in K

1年と半年前、私が職場を異動する時、同僚の還暦過ぎのおじいちゃんが言った。 「伊興1から文化人がいなくなる!」 文化人……今日では杳として聞かれなくなった言葉だ。戦後、市民的/民主的知識人を「進歩的文化人」と称したが、私がそのカテゴリーに該当す…

現場要請

昨日、訪問介護を一件終えたあと、携帯電話を見ると、兼務先の老人ホームから着信があった。折り返し掛け直すと、総務部の方が出て、現場の介護部の上司に繋いでくれた。 「休日なのに折り返し電話をくれてありがとう。シフトで相談したいことがあるんだ。兼…

ショートスリーパー

最近は日付が変わる頃に寝て、3時か4時くらいに起きている。ショートスリーパーを気取っている訳ではない。原因は分かっている。抗精神病薬のアリピプラゾール(エビリファイ)の抗鬱作用が引き金になって、早朝覚醒を促しているのだ。例えば同じ抗精神病薬…

あれもこれも

東京未来大学福祉保育専門学校の精神保健福祉士課程のパンフレットが届いたので、パラパラめくっている。 オンデマンドではなく、対面の授業スクーリングが11日もある。まだ詳細は分からないが、苦学生でも通えるように土日を中心に授業を組んでいるらしい。…

夏の隠遁

当今の流行病はやりやまいは、私の仕事場所 山谷にも静かに、確かに拡がっているので、その間は炊き出しも取材もできない。この期に及ぶまで私は、新型コロナが私のライター活動を邪魔するとはゆめにも思わなかった。個人と社会のあらゆる障壁ボーダーを突破…

惜別

7月29日をもって、私は松戸の有料老人ホームの勤務1を終えた。8月2日からは伊興の特別養護老人ホーム2に勤務することになる。退職ではなく、異動である。後者は私が介護の「か」の字も分からない、新入職員の頃から勤めていた施設である。つまり、古巣に出戻…

点と線

東京の下層社会 (ちくま学芸文庫)作者:紀田 順一郎筑摩書房Amazon 紀田順一郎『東京の下層社会』。山谷のルポの下調べのために読んだが、あまり役に立たなかった。本書のタイトルは、横山源之助『日本の下層社会』のオマージュだが、横山氏のそれに比べれば…

ネットワーク

聖餐式ミサの後、足早に教会を立ち去ろうとする私の肩を、神学生の染谷さんが掴んで言った。 「ちょっと、ちょっと。兼子さん、行かないでくださいよ。最近、どうです?」 「すみません、市川聖マリヤ教会にはお世話になっていますけど、やっぱり、私、洗礼…

2022年前期の総括

春学期から参加していた立教大学の浪岡ゼミが一昨日、最終回を迎えたので、この半年間の自分の成長を総括したい。 自分の書きたいテーマ、研究テーマを決めて、取材に行けるようになったこと。 短歌を再開したこと。 案外、こんなものか。まだまだ全然ライタ…

魂の平和

この頃、思わぬ時に内省したり、あるいはただボンヤリ時を過ごしたりしてしまって、身辺雑事が手に着かなくなってしまっている。 生来、神経症に苦しめられていた中村真一郎は、自分の人生の目標は魂の平和を得ることだ、と折に触れて語っていたが、彼はその…

政治学 vs 社会学

山谷のルポルタージュのタイトルが決まる。『山谷の宗教社会:キリスト教徒の炊き出しの論理』。この作品は私の初めての社会学的研究になるだろう。ちなみに、大学院生の頃に書いた『青踏』の論文は文学研究だった(そう思うと、私は政治学の研究を一度もし…

天皇制の憂鬱

私は護憲派ではない。日本国憲法の第9条は改正して、自衛隊は戦力として認めるべきだと思うし、そもそも第1条の天皇制は廃止して、日本は共和制に移行すべきだと思っている。 しかし、こんな政治的志向を持つ人間は、現代の日本において容易に受け容れられな…

私の仕舞支度

8月1日をもって、私は千葉県松戸市の有料老人ホームから、足立区伊興の特別養護老人ホームに異動する。読者諸氏はお分かりだと思うが、1年数ヶ月前に私は真逆のことを書いている。体よく言えば元の鞘に収まるということだが、その間、訪問介護を始めたりなど…

韻文と散文 歌人と文人

今日は短歌を何首かリライトした。単語を切ったり貼ったり、入れ替えたりすることで、ようやく自分が納得できる一首ができるのが短歌の魅力だ。これは散文にはない、韻文だけに許された楽しみで、小説や随筆の推敲の仕方とは全然違うだろう。散文は「ええい…

情報活動

勤務先の職場でホール業務をしていると、普段、何かと気にかけてくださる看護師の方が、新聞記事の切り抜きスクラップを手渡してくれた。 www.asahi.com 「介護ライターって、あなたのことじゃないの。兼子くんも早く立派になって、こういう所に書けるといい…

ルビぞ愛しき

西行花伝 (新潮文庫)作者:邦生, 辻新潮社Amazon 辻邦生という小説家がいる。私はこの人から文体について多くのことを学んだ。特に彼のルビ遊びはおそらく文学史上類を見ないものである。『西行花伝』では、森羅万象いきとしいけるもの、実在感たしかさのよう…

地獄の一丁目を歩く

「俳句を詠むためには地獄を通過しなければならない」誰かが語った言葉だが、俳句を素人としてではなく、玄人として極めようとすると、その先には魔道が潜んでいるらしい。この感覚は私のようなアマチュアの権化のように見られている人間でもそこはかとなく…

自転車野郎

TREK FX1 休日、自転車のタイヤに空気を入れ、フレームを磨き、ギアに油を差し、サドルの高さを調整した。この車種はTREK FX1というやつで、私が小岩に引っ越してきた頃に購入したから、かれこれ6年くらい乗っているけれども、修理に継ぐ修理を施して、今で…

和食と洋酒

大人、あるいは中年、と言うべきだろうか。ともかくその年代になってから、食は和食、酒は洋酒と好みが決まるようになった。洋酒が好きなのはハイカラ趣味などではなく(もちろん、その要素も否定できないが)、洋酒は酒徒のすべての需要をカバーできる所に…

ねごとリバイバル

www.youtube.com ねごと、という女性4人組のバンドがある。あった、と言うべきかもしれないが、2019年に解散してしまった後も、私の中で現在進行形の輝きを放っている。 私の手もとにある盤は、「sharp #」と「空も飛べるはず/ALL RIGHT」。いずれもシング…

市民社会と下層社会

今日は施設、老人ホームの勤務は休み。その代わり、訪問介護に2件行ってきた。いずれも買物代行である。 あまり仕事の愚痴は言いたくないし、もともとその柄ではないけれど、介護福祉士の有資格者を買物代行などの生活援助の業務に当てるのはいかがなものか…

我、養生す

躁鬱病の基本薬として、アリピプラゾール(エビリファイ)を処方されて以来、毎日、軽躁状態で過ごしている。そのために深刻な鬱状態に落ち込むことは少なくなったけれど、飲酒量はとみに増加し、金遣いは荒くなったような気がする。私は放蕩という言葉を観…

ドヤ街に歌えば 4

大倉屋のけんちん汁 昨夜、酒を飲み過ぎたので塩分が不足気味である。山谷のけんちん汁専門店 大倉屋で一杯頂く。270円也。この日、同店を訪れるのは3回目。私の顔を覚えてくれたのか、店主はカウンターに置いてあった、鮭おにぎりを一個、私に手渡してくれ…

繰り返し人生

洗濯物が洗い終わるまで、昨夜、起稿した短歌2首を推敲する。記憶を触媒にして、ほどよく情感を盛り込むことができた、自分でも納得のできる出来だ。来年1月に短歌結社 塔に復帰する予定なので、今から歌稿を書きためておく。 本日、11時にカトリック教会が…

短歌を切る

おそらく、私に語学の才能はない。小学生の頃は国語で零点を取ったし、学生時代は一貫して英語の点数が低かった。ドイツ語もいまだにものになっていない。日本語、なかんずく、古文も言語の一種に違いないから、これも例外ではない。知識と情熱のある良い先…

ドヤ街に歌えば 3

バー 玉ちゃん 街場と酒場 山谷には飲食処のみくいどころが少ない……。この街を訪れた人の初めの印象は左記のようなものではないか。たとえ、それが統計的に事実だとしても、お店の雰囲気、料理の滋味、店主の人柄を知らなければ、片手落ちになるだろう。「戦…

ドヤ街に歌えば 2

ビジネスホテル 紫峰 「うちは1泊だけっていうのは、やっていないんですよ」 私が簡易宿泊所ドヤの門を敲いた瞬間、帳場から発せられた一声である。表には「空室あり」と書かれているにも関わらず、常宿にしている客以外——いわゆる一見様はお断りのように思…

ドヤ街に歌えば 1

泪橋のあしたのジョー はたして私が山谷に来るのは正しい行為おこないなのだろうか? 私は泪橋に屹立する、あしたのジョーの銅像を前にして、自問自答していた。 南千住の駅を降りると、私は立体交差の歩道橋を越えて、さらに南下した。泪橋1を渡ると、景色…

ドヤ街に歌えば Prologue

寿町のひとびと作者:山田 清機朝日新聞出版Amazon 「兼子くん、うちの学生に何か話してみてよ」と、先生に言われたので、政治学、文学などの文献を当たってみたけど、90分間話し続けるほどの分量に纏める自信がない。居直って短歌を書いたが、韻文では講義か…

戦後短歌ルネッサンス

埃吹く街―歌集 (短歌新聞社文庫)作者:近藤 芳美短歌新聞社Amazon 近藤芳美の第一歌集については諸説ある。『早春歌』と言う人もいるし、『埃吹く街』と言う人もいる。発行日は『埃吹く街』の方が早かったようだが、いずれにせよ、私は後者を近藤芳美の処女作…