BOOKMAN

TAKASHI KANEKO

実験精神

昨夜は睡眠不足に加え、へとへとに疲れ切っていたので、酒も飲まずに泥のように眠った。ただし、抗精神病薬ジプレキサは飲んだ。

世間では新型コロナウイルスに対する既存の治療薬の保険適用、新薬の開発が急がれている。私もこれは大事な仕事だと思うし、病気は気合だけで治す訳にはいかないので、医療、薬事関係者を応援したくなる。人間の歴史において、薬の開発は試行錯誤の連続だった。そこでは自然/人工のカテゴリーは無効になる。臨床試験でたくさんの人々が亡くなった(認可後もたくさんの人々が亡くなった)。実験エクスペリメント経験エクスペリエンスの語源は同じである。どちらも試すのである。経験主義エンピリシズム実証主義ポジティヴィズムはこの一点で繋がっている。まず仮説を立てる。次に実験する。再び反証する。正しければ、理論として成立する。薬学も、物理学も、文学も、実は同じことをしている。優れた臨床医は患者に処方した薬を自分にも試してみる。薬の作用/副作用を身をもって知るのだ。

新型コロナウイルスは確かに怖い。しかし、私は肉体的な病気よりも精神的な病気の方がはるかに怖い。自分の精神が闇に閉ざされてしまうのではないかという恐怖につねにつきまとわれている。この頃は強迫性障害ぎみである。そのために不眠症が嵩じてきた。普段、人前ではものにこだわらない、いい加減な人間を演じているが、その実、潔癖、几帳面な自分を破壊したいだけなのかもしれない。抗精神病薬ジプレキサはあらゆる精神症状に効く、私にとって精神科の総合感冒薬のようなものである。