BOOKMAN

TAKASHI KANEKO

酒断ちぬ

昨夜は酒を一滴も飲まずに、抗精神病薬ジプレキサ(2.5mg)を飲んで眠った。睡眠時間は8時間くらいだろうか。久しぶりに深く、長く眠った。快眠だった。

この頃は不眠が続いていた。老人ホームの労働はシフト制なので、早番、遅番、夜勤など、勤務時間はてんでバラバラ。規則正しい生活を送ることは無理なので、同僚は多かれ少なかれ睡眠に関するトラブルを抱えている。スティーブン・キングは小説『不眠症』の中で、「人間は二種類に分かれる。眠れる人間か、眠れない人間か」と、エピグラフに書いているけれども(同様に彼は「人間は眠れなくて死ぬことがある」とキルケゴールなみの深刻さで書いているくだりがある)、私はたぶん「眠れない人間」の方に分類されるのだろう。25歳の時に突発的に不眠症に襲われていらい、私は眠りに関するトラブルを抱え続けてきた。薬に頼るのはよくない、酒を飲んで「自然」に解決しようとしてきたけど、結果、不眠症は悪化し、さらに悪いことに持病の躁鬱まで昂進するのであった。私は酒飲みたさのあまりに、薬を飲むことを拒んできたのである。

しかし、もう潮時である。私は今33歳。中年に差しかかっている。誰しも自然と社会と人生に痛めつけられて、持病のひとつ、ふたつ、抱える年頃である。「私は中年ではない、壮年である」と覚悟して、反攻に出るにも、まず持病を飼い馴らす必要がある。大人しく薬を飲んで、酒はほどほどにする必要があるのではないか。自身の健康に気を遣いすぎると身動きがとれなくなってしまうけれど、仕事を長く続けるためには健康管理が欠かせないと、身をもって知ったのであった。