開高健のスピリッツ

帰宅早々、ウイスキーを水割りにして飲む。比率は《ウイスキー:1 水:2.5》。アルコール度数は10%くらいだろうか。ウイスキーの銘柄は角。割水は南アルプスの天然水。どちらもサントリーの主力商品だ。飲み友達に、「私はサントリー宣伝部に洗脳されている」と、吹聴しているけれども、角は、ロック、水割り、ソーダ割など、割材によって、風味が多彩に変化する、非常に面白い、優れた銘柄だと思う。むしろ、割材ありきで作られた製品なのではあるまいか。これは長年(といっても、せいぜい6年くらいか)、ストレートばかり飲んでいた私には預かり知らぬ真実だった。「大のおとなが水割りにして飲めるか」という開高健の放言を、私は真面目に受け取ってしまっていたのである。確かに彼は、ウイスキー、ジン、ウォッカテキーラ——蒸留酒であれば何でもストレートで飲んでいた。彼の仕事に蒸留酒スピリッツは欠かせなかったのだ。しかし、彼は同時にマティーニなどのカクテルを愛していた。

ウイスキーはストレート(straight)、トワイスアップ(twice up, 2倍割)、スライスアップ(thrice up, 3倍割=水割り)、ソーダアップ(soda up, ソーダ割り)、オン・ザ・ロック(on the rocks)など、体調や気分に応じて、さまざまな飲み方ができる。最高に使い勝手のいい、最高にコストパフォーマンスのいい酒である。私は今、高度経済成長時代の企業戦士達がこの酒を愛した理由がなんとなく分かる。胃腸の健康を損ねて、私は初めて水割りを飲むようになった。ウイスキーは私の常備酒である。