伊興から松戸へ

3月1日より、勤務地が東京都足立区伊興から、千葉県松戸市五香に変わった。昨年末に私が「もっと都会で働きたい」と上司に訴えて、協議を重ねた結果である。私にとって「都会」とは、狭義には東京の「中」、すなわち、中央区千代田区、港区を指すのだが、実際に辞令を読んでみると、千葉県松戸市と書かれてあった。——もはや東京ではない。なんという皮肉! 勤務初日の当日、五香駅・西口を出ると、目の前に過疎化した商店街が拡がっていた。テナントはガラ空き。借主は不在。いや、賃貸借以前の問題で、建物は老朽化して使用に耐えないように見えた。ゼロ年代以降、人間と資本の誘致と育成に失敗した地方都市の惨状を目の当たりにした。首都圏でも郊外はこれほどまで荒れ果てているのか。私の職場は五香駅から、さらに18分ほど歩いた所にある。足腰は鍛えられるだろう。

かつて郊外は中産階級の理想郷であった。都会と田舎が適度に組み合わされたその土地で、彼らは健康的で文化的な生活を送るつもりだった。その郊外が没落している事は、中産階級が没落している事を意味するのだろうか?

私の職場までの乗車経路は次のとおり。高砂→金町→松戸→五香。乗り換えが多いかもしれないが、次の電車までの乗り継ぎがいいので、待ち時間のストレスは感じないかもしれない。また、金町には葛飾区中央図書館があるので、通勤の行き帰りに本を借り入れることもできる。松戸への転勤の決め手は、実はこの点にあった。私の向こう3年間は学究生活を送りたいと思う。私はつねづね「学生のような生活を送りたい」と言っていたが、それを実行に移すのだ。そして、遊びたい時、気晴らしをしたい時は、松戸に行けばいい。「それでも私は幸せだった。酒場バーが開いていたからだ」。