BOOKMAN

TAKASHI KANEKO

between Politician and Economist

経済学者についての伝記を読んでいる。

特にフリードリヒ・ハイエクの『隷従への道』は、コロナ禍を契機に、市民社会に対する行政の恣意的な権力の行使に憤慨している最中に読んだので、思い入れが深い。しかも本書は、かつて政治学を断念した私の関心を再び政治学に向かわせてくれた。その点、私はハイエクに恩義があるのだ。

図書館で経済学の入門書を借りてきて、仕事の合間と就寝の前に少しずつ読んでいる。

特に近代経済学の核であるゲーム理論が難しい。実際に分析の道具として使うためには、本腰を入れて数学を勉強しなければならない(そして、Rなどのプログラミングも)。ゲーム理論の礎を築いたのは、ジョン・フォン・ノイマンオスカー・モルゲンシュテルン、そして、ジョン・ナッシュであり、特にナッシュ均衡点を導き出すことは、数学の問題を解くと同時に、現実世界の問題を解くことを意味する。人間は利己的に思考し、行動しているように見えるが、注意深く観察すると、利他的に思考し、行動していると分かる瞬間である。5年前、ナッシュの評伝『ビューティフル・マインド』を読んだ時の感動が蘇った。

大学に入学すると同時に、私は「文系」になったが、その差別は間違いであると気付く。数学の理解なしに数学者の評伝は書けない。文学を書くためには、文学以外のことも学ばなくてはならない。フランス文学の講義の最中に中島健蔵は言った。「君、文学だけに凝り固まっていては駄目だぜ1


  1. 辻邦生『のちの思いに』日本経済新聞社、1999年、32頁。