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TAKASHI KANEKO

若き革命家の肖像

私はガンダムが好きである。


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初めてTVで見たのは『機動戦士Vガンダム』で、主人公が乗るガンダムも含めて、モビルスーツと呼ばれる人型兵器が容赦なく次々破壊されていく描写に衝撃を受けた。それまでのロボットアニメは、主人公機は基本的に無敵で、敵の弾をもろともせず、無傷で勝利するものだが、一方のガンダムは脆弱に作られている。最終話ではそれも大破するから、結果的に誰が勝利したのか分からなくなる。特に『Vガンダム』では、戦闘中に主人公のウッソ・エヴィンも含めて、ほとんどのキャラクターが発狂するので、当時、小学校1年生だった私に、人間の強さ、脆さを教えてくれた。この作品を見て以来、私の脳裏に、富野由悠季の名前が刻まれた。

先日、亀有アリオの映画館で、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を見に行った。


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富野由悠季の小説を、村瀬修功監督が映画化した同作は評判がいいらしい。私が見た映画館も座席の7割5分が埋まっていた。なかには子連れの夫婦も居たから、結構根強い、コアなファンがいるのだろう。

一見した感想では、小説の世界を、映画は忠実に再現していると思った。モビルスーツが重力に抗って飛翔するシーンや、真夜中に空襲され、逃げ惑う人々を描くのは、富野由悠季お家芸とも言うべきものだ。ただし、男女の機微に関しては、村瀬修功の作風がかなり反映されていると思った。この点は富野の方が、もっとドライに、突き放すように描いている。

主人公のハサウェイ・ノアは地球の植物監察官という表の顔を顔を持ちながら、同時に、反地球連邦組織の指導者 マフティー・ナビーユ・エリンという裏の顔を持つ。旅客機の中で、彼と際会した少女 ギギ・アンダルシアは彼の正体を一瞬で見抜き、同時に知己になった地球連邦軍大佐 ケネス・スレッグは、マフティー掃討作戦を展開しながら、徐々に彼の正体を追い詰めていく。この筋書きが単純に敵味方がドンパチするロボットアニメではなくて、スパイ映画のような感興を与える。

マフティー(これは指導者であると同時に組織の名前である)は政府の要人を暗殺するテロ組織である。しかし、それでも陰惨にならずに、そこに集う面々が若々しく、清々しいのは、アニメという虚構フィクションが作る功徳だろう。私は富野由悠季の世界のこの側面に強く惹かれ、教えられてきたし、村瀬修功はこれを正しく理解し、継承してくれた。不条理な世界に生きて行く若者の背中をそっと後押しする。コロナ禍でこのような作品を見れたことを幸運に思う。