成人病覚書

痛風

指の関節に赤いブツブツができた。肉を食べ過ぎたり、酒を飲み過ぎた翌日にできることが多い。触ると刺すような痛みを感じる。おそらく、血液中の尿酸が結晶化しているのだろう。痛風の前駆的症状である。

昨年の健康診断では尿酸値は8.5mg/dl。基準値よりも1.5mg/dl多い。その前の健診では9.4mg/dlだったから、慢性的に高い数値で推移している。思い返してみると、去年、左足の親指の母指球が1週間以上痛かった(特に夜勤明けに痛むことが多かった)。歩くのにも難儀するので、骨折か、と思ったが、近所の整形外科を受診すると、ただの関節炎で特別な異常は見られなかった。しかし、ドクターに健診の結果を見せると、「尿酸値が高いね。こいつはね、炎症を悪化させるんだよ。火に油を注ぐようなものだ」と話していた。

今年に入ってから、左足の母指球が腫れることはほとんどないが(それでも違和感を感じることはたまにある)、指の関節に発生する赤いボツボツはやはり気になるものである。今年の健康診断を9月に控えている。依然、尿酸値が高かったら、内科を受診して医師と相談したい。血液中の飽和した尿酸は関節だけでなく、腎臓にも蓄積、結晶化し、腎不全を招く。いま勤めている老人ホームでは、仕事柄、透析治療を受けている患者が多い。腎臓を痛めた人間の末路がだいたいどういうものか知っているので、私は今から腎を冷やしている。職場のナースに相談すると、「薬を飲んで、早めに手を打っちゃいなさいよ。もう若くないんだからさ」と言った。悩んでいる暇があれば、早めに病院に行くことだ。

躁鬱

2017年の夏、私は当時付き合っていた情婦に「あなたは病気です。精神科に行ってください」と言われた。それより以前に、私は自ら進んで精神科を受診したことがあったが、薬をコンスタントに飲み続けるのが嫌だったので(酒を飲み続けたかったので)、精神科から足を遠のいていたが、私はここに来てようやく、自身を躁鬱病患者として認めることになった。それは治療薬として抗精神病薬を受け入れることを意味した。

いま飲んでいる抗精神病薬 ジプレキサ(オランザピン)は鎮静作用が強いので、病気の急性期は有効かもしれないが、病相が安定、寛解してくると、過鎮静に傾く嫌いがある。本来、ヒトとして生きるために必要な、動物的な情熱を鎮静化させてしまうのではないか、と危惧しているのだ。いま手持ちのジプレキサを飲み切ったあと、主治医と相談して、同じく抗精神病薬エビリファイ(アリピプラゾール)に切り替えてみたい。ちなみに抗精神病薬を飲んでいると、自分の生活世界で何か出来事が起こっても、別段、嬉しくも悲しくも思わなくなってくる。このために周囲の人々から落ち着いている、あるいは老成していると見られるが、ただ感動していない丈である。気持ちの浮き沈みを免れているが、これはこれで寂しい。永井荷風はこの心境を次のように語っている。「これから先わたしの身にはもうさして面白いこともない代りまたさして悲しい事も起こるまい。秋の日のどんよりと曇って風もなく雨にもならず暮れて行くようにわたしの一生は終わっていくのであろう1

アル中

不眠と躁鬱が悪化した27歳くらいの頃から、私はほぼ毎日(毎晩ではない。渇けば、朝でも昼でも飲む。酒飲みは時間に頓着しないのだ。とはいえ、私は寝しなに飲む酒、所謂、寝酒が多い)酒を飲んできた。しかも、今の職業、介護に手を染めてから、私の酒量はとみに増えた。ストレスの多い、不規則な労働環境がこれを増長しているように思える。

しかし、近頃、酒を飲む量が減った。以前は読書をするにも傍らに酒瓶を置いていたが、今は急須の茶を飲んでいる。時節柄、酒を飲む機会が減ったこともあるが、酒を漫然と、しかも大量に飲み続けていると、不眠、躁鬱、痛風、下痢など、さまざまな身体/精神症状に襲われることを身をもって知ったのだろう。青年の頃は粋がってウイスキーをストレートで飲んでいたけれども、この頃はトワイスアップで、適当に水を加えて、自身の健康と相談しながら恐る恐る飲んでいる。私は用心深くなった。それが中年というものであろう。


  1. 永井荷風『雨瀟瀟』岩波文庫、1987年、108頁。