基本薬をオランザピン(先発品:ジプレキサ)からアリピプラゾール(先発品:エビリファイ)に切り替えてから、もうすぐ1週間がたつ。
最初はぜんぜん眠れないし、眠れても夢ばかり見るので、発狂しそうになった。しかも、私は薬の切り替えを夜勤前に敢行したので、副作用の影響をもろに被ることになり、2、3日、ほぼ徹夜の状態で夜勤に臨むことになった。今回は命を削っている感じがした。薬の切り替えはイノチガケである。コロナ・ワクチンの副作用なんて、私には屁みたいなものだったけれども、抗精神病薬の副作用は、私にとって重篤な被害をもたらした。同病者諸君、薬のスイッチングは慎重に。
しかし、アリピプラゾールには思いがけない、嬉しい副作用があった。
覚醒
オランザピンを飲んでいた頃は、鎮静作用が強いので、時間が許せば昼過ぎまで延々と寝ていることが多かったが、アリピプラゾールを飲んだ翌日はだいたい朝の4時くらいに覚醒する。睡眠時間が4時間くらいでもかなり元気だ。一口に抗精神病薬と言っても、鎮静系と覚醒系に分かれている事実を私は身をもって知った。オランザピンの鎮静作用は主にドーパミンD2受容体を阻害することによって生じていると思われるが、アリピプラゾールは明らかに前者に比してドーパミンを遮断しないので覚醒作用が強くなるのだろう。低用量だと抗鬱(躁転)、高容量だと抗躁(鬱転)に働く、不思議な薬である。躁鬱病の治療の肝は、躁と鬱の均衡点を発見することである。それまでにけっこう時間がかかる。アリピプラゾールならば、私の場合6mgで安定すると思う。3mgあるいは12mgで落ち着く人もいるから、人それぞれである。ちなみにオランザピンは私の場合2.5mgでも抗躁(鬱転)作用がつよかったので、私は躁鬱の均衡点を見つけることができなかった(ゲーム理論みたいだ)。興奮、混乱、錯乱していても、眠りと(一時の)平和をもたらしてくれる良い薬だったのだが——。
節酒
この薬を飲むと、酒が飲めなくなる。いや、正確には飲まなくなる。今までワインのボトルを1本空ける。あるいは、ウイスキーをグラスで5、6杯空けていたのが、1杯で十分になる。もう、飲めないのではなく、もう、飲みたくないのだ。この経験は私には衝撃的だった。たぶん、以前よりも酒を美味く感じていないだろう。今でも、朝酒、昼酒、寝酒、月見酒、雪見酒を飲むことにやぶさかではないが、それでも1、2杯で終わりである。後は水を飲んで楽しむ。アルコール依存症になるはずがない。私は今まで酒豪をもって任じてきたが、この頃は酒仙の領域に近づいてきたらしい。
躁になると、ふつう食欲、性欲が亢進するので、それに比して酒量も上がるのではないかと思うが、そんな単純な仕組みではないらしい。そもそも、精神病者が酒を飲む動機は、鬱を晴らし、気持ちを持ち上げるためにあるのだから、薬を使って躁転(抗鬱)さえすれば、そもそも酒を飲む理由がなくなるのだろう。——もはや、アルコールの力を借りて、ドーパミンを放出する必要はない。その点、ドーパミンD2受容体を阻害していたオランザピンは、私に却って酒を飲むことを促していたのかもしれない。
アリピプラゾールの副作用は私にとって、仕事と勉強をするうえで良い影響をもたらした。オランザピンが麻薬だとすれば、アリピプラゾールは覚醒剤だ。戦後、文化人たちがヒロポンやベンゼドリンを好んで飲んでいた理由がよく分かる。中年を過ぎても、いよいよ働ける、稼げる感じがする。この薬には金銭の臭いがする。