BOOKMAN

TAKASHI KANEKO

ウイスキーのお別れ

昨日、職場の同僚の板橋さんが、私が来月異動するので、餞別としてウイスキーをくれた。昨日が一緒に働く最後の勤務だったのだ。

ウイスキーの銘柄はTINCUP。アメリカン・ウイスキーで、コルクの栓にフタをする形で、鉄製のカップが付いている。心身の調子が優れない時、気持を持ち上げたい時、困難に立ち向かう時、このフタに火酒を注いで、クイッと飲る訳だ。

TINCUP

フタを外し、クイッと飲る

板橋さんは私よりも大柄で、人一倍多く働く人だ。体力が有り余って、ワイルドプレイに走ることもしばしばだが、その本質は繊細で、芸術を愛する気持の優しい人なのだ。アルバイトでピアノも弾いているらしい。職場に板橋さんが居ると、私のふさいだ心は華やいだ。芸術家の最終的な使命は人々を解放することだと、彼は身をもって私に教えてくれた。

終業後、私達はTINCUPの栓を開け、階段の踊り場で乾杯した。儀式に酒は欠かせない。これでお別れだと思うと私の心は疼いた。——ウイスキーに華あり。