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Takashi Kaneko

バビロンに行きて歌え

ああ、本当に東京へ帰ってきたんだと彼は思った。もう大丈夫なんだ。この仕事、この仲間、この手応えで、これからずっとやっていけばいいんだ1

心身が疲れているのか、それとも昨夜飲んだ睡眠薬が効きすぎたのか解らないが、今日は午後1時半まで寝ていた。鬱っぽい感じ。起きがけに薄いコーヒーを飲む。

バーテンダーの仕事をいつまで続けるかは分からないが、1年でも3年でも気が済むまでやればいいと思う。ただし、それはライターの仕事を豊かにする、という条件が付く。バーテンダーがライターを食ってしまったら、元も子もないからだ。先ほど具体的な数字を挙げたが、ライターとしても年単位で成果を上げたい。それも目に見える形で。そのためにはWEB記事の業務委託ではなく、自分で書籍を出版して、仕事を纏める必要があるだろう。

『バビロンに行きて歌え』の主人公ターリクは、ベイルートから亡命後、日本の首都・東京で、歌を歌うこと、シンガーとして生きることに己の存在様式を見出したが、私にそんな時代が来るのだろうか? 一時期、業界新聞社に記者スタッフライターとして勤めていたが、苛められて辞めてしまったことを思うと、サラリーマンに戻ることに対する脅えがある。それと夜働く代わりに、日中、わりと自由な時間を過ごせるのは、性に合っているから悩ましい。


  1. 池澤夏樹『バビロンに行きて歌え』(新潮社、1990年)