酒を飲むイワン

ドナルド・W・グッドウィン『アルコールと作家たち』という本の中で、「優れた作家は慎重に飲むことを弁えている」という或る小説家の言葉が引かれていたが、今の私に必要なのは禁酒でも節酒でもなく、まさにこのスキル(やはり、節酒と呼ぶのだろうか)で、身体を壊さない、生活を破壊しない、そして、尚且つ酒の力も借りてばんばん書くことである。私は特別、血中アルコール濃度を上げながら文章を書くことについて良心の疚しさを覚えない。書ければそれでいい。昨日よりも今日の原稿の行数が増えていれば、それで佳しとする人間である。芸術ことに文芸においては、御茶と珈琲だけで仕事をするには限界があるような気がする。

結局、私は毎日酒を飲む。今までは主に音楽を聴いて過ごしていたが、今後はあまり深酔いしないように気をつけながら、その時間を執筆に当てようと思う。消費から生産に切り替えるのだ。

『カラマーゾフの兄弟』の一見細かいが、興味深い場面がある。父 フォードルが修道院で愚かな振舞いをして、当地を去る時に、次男 イワンにこう言うのだ。「イワン、お前も一杯やるだろう!」カラマーゾフの酒飲みの血筋は、知識人 イワンにも受け継がれているのだ。三男の活動家 アリョーシャもいつか失意の内に酒に溺れる日が来るかもしれない。