ドヤ街に歌えば 1

泪橋のあしたのジョー はたして私が山谷に来るのは正しい行為おこないなのだろうか? 私は泪橋に屹立する、あしたのジョーの銅像を前にして、自問自答していた。 南千住の駅を降りると、私は立体交差の歩道橋を越えて、さらに南下した。泪橋1を渡ると、景色…

ドヤ街に歌えば Prologue

寿町のひとびと作者:山田 清機朝日新聞出版Amazon 「兼子くん、うちの学生に何か話してみてよ」と、先生に言われたので、政治学、文学などの文献を当たってみたけど、90分間話し続けるほどの分量に纏める自信がない。居直って短歌を書いたが、韻文では講義か…

戦後短歌ルネッサンス

埃吹く街―歌集 (短歌新聞社文庫)作者:近藤 芳美短歌新聞社Amazon 近藤芳美の第一歌集については諸説ある。『早春歌』と言う人もいるし、『埃吹く街』と言う人もいる。発行日は『埃吹く街』の方が早かったようだが、いずれにせよ、私は後者を近藤芳美の処女作…

事物と情緒

「タバコの時間だな」 以前、煙草屋に勤めていた友達の紹介で、BOHEM CIGAR NO.6(Tar:6mg, Nicotine:0.6mg)を試してみた。 外箱に"containing 30% of fine cigar leaf"と書かれている。葉巻の葉を30%含んでいるそうだ。確かに、軽いのに芳醇である。「淫蕩…

政治文学と基督教文学

市川聖マリヤ教会の聖餐式に参列した。立教大学の礼拝堂チャペルは、新型コロナの感染防止のために予約制を敷いているので、まだ気軽に足を運ぶことができない。その代わりと言っては恐縮だが、地元の教会に積極的に足を運ぶようにしている。大学のチャペル…

微睡の後に

睡眠不足である。この1ヶ月くらい、約3時間睡眠で稼働している。布団に入ると寝落ちしてしまうので、入眠は問題ないが、夜半、目を覚ましてしまうのである。その後は夢うつつ微睡んでいる。中途覚醒である。 先日、躁鬱病の基本薬である抗精神病薬が無くなり…

A Empty Holiday

何の予定もない休日。幾日ぶりだろうか。外出は近所の自動販売機でペプシ・コーラを買うことと、最寄の郵便局にハガキを出すことくらいである。 『朝日新聞』誌上の「朝日歌壇」に投稿した。官製ハガキに万年筆で清書すると、厳粛な、清々しい気分になる。新…

言葉の凝集力

とりあえずブログを毎日更新してみたが、文章の密度が明らかに低下した。文章に凝集力がない。普段、机の前で刻苦呻吟しているのは、この圧力を高めているのだと分かった。 「文学的」というのはそもそもどういう意味だろうか。文体スタイルに遊ぶ。修辞レト…

職員休憩室

今夜は友人とドライブに行くので、会社の休憩時間中にブログを書いている。 「会社」と言ったが、私の勤務先は株式会社ではない。社会福祉法人である。「会社」と言う感じはあまりなく、「施設」ないし「事業所」という感覚に近い。経営者も、この組織を「法…

総武線の席に坐りて

最近「ブログを書いていないじゃないか」というお叱りを頂く。 実際の所、ブログだけではなく、今、書いているものと言えば、短歌と日記、そして、こまごまとした文章くらいで、総じて生産量は低い。 ブログが収益にならないことを知ってしまったから、モチ…

当世学生気質

10年ぶりに母校の講義と演習ゼミナールに参加した。 講師は明治学院大学 国際学部の浪岡新太郎教授。先生は私達が大学1年生の時に立教大学の助教1を務めていらっしゃった。その後、外務省の勤務を経て、前記の大学に就職された。私の政治学の恩師の一人であ…

荒野へ

なんぢら人を避け、寂しき處に、いざ来りて暫し息いこへ。 ——『マルコ傳福音書』第6章31節 短歌は上達している。言い換えれば、短歌しか書いていない。 NHK短歌 新版 作歌のヒント作者:永田 和宏NHK出版Amazon 『作歌のヒント』で永田和宏が言うように、短歌…

福祉レボリューション

第34回 介護福祉士試験に合格した。受験資格には3年間の実務経験が必要だから1、私は叩き上げの一人前の介護士として認められたことになる。私は介護の専門家になったのだ。 思えば3年前、厚生労働省(ハローワーク)の職業訓練プログラムで、介護初任者研修…

場所と才能

どこに住めば仕事ができるのか? 収入が増えるのか? 才能が開花するのか? 30歳の頃の私はそのような現金な問いをえんえんと繰り返していた。 経済学や地理学、あるいは地政学の本に感化されたのではないか、と思われるかもしれないが、私の場合は文学だっ…

小説の生理学

吉行淳之介全集〈第1巻〉全短篇1作者:吉行 淳之介新潮社Amazon 花の小説家 吉行淳之介について、このブログでも何度か書いているが、彼の作品について書くのは、今回が初めてである。彼について言えば、私の中で或るイメージが先行している。NHKの連続テレビ…

巴里の憂鬱

パリに終わりはこない作者:ビラ=マタス,エンリーケ河出書房新社Amazon 人はなぜ街に来るのか。また、人はなぜ街を去るのか。街は古今東西、人々が往来し、際会する場所であり続けた。数多あまたの世界都市の中でも、パリはひと際、その役割が顕著だった。こ…

精神障害者保健福祉手帳

本日、精神障害者保健福祉手帳を取得した。 等級は3級。申請の際に提出する主治医の診断書は読んでいないが1、診断名は双極性障害(躁鬱病)である。気分障害の一種だ。痼疾、宿痾、持病など、日本語には「不治の病」の表現はいろいろあるが、その人を苦しめ…

肉体の地獄

「落ちる所まで落ちたから、あとは昇るだけよ」 職場の看護師はそう、沈鬱な表情を浮かべている私を励ましてくれたが、ふと、ある疑問が浮かんだ。 人間はどこまで落ちることができるのか。もし、奈落あるいは地獄という場所があるとすれば、それはどこにあ…

懦弱と自由

数日間、ブログを更新していなかったけれど、けっしてブログのことを忘れていたのではありません。他にライティングの案件があり、それに注力していたら、書きそびれてしまったのです。単価は低いのですが、継続してご依頼いただけているので、有り難いこと…

Three rounds in Tokyo

29歳の時に東京に移住してきたので、6年が経つ。 大都会は誘惑が多いので、その分、躓き、気落ちすることも多いけど、まだ東京と自己に絶望しないで、この街に踏み留まろうと思う。 私の東京生活には三つの周回ラウンドが存在する。 1回戦 出版社に勤めてい…

編集と台所

外回りから戻った私は自分の席に着いて、床に荷物を降ろした。 「どう? 成果はあった?」古希に差しかかった老媼の編集長が訊いた。 「いえ、一件も取れませんでした」私が苦しげに答える。自転車で営業してきたからだ。 「そんなんじゃ、新聞でなくなっち…

「おおっ」文学者

宗教に関心がなければいけないのか (ちくま新書)作者:小谷野 敦筑摩書房Amazon 小谷野敦は私の読書の先生である。もちろん、勝手に私淑しているだけで、直接的な師弟関係はないのだが、彼の著書で紹介されている本をひも解いて、「おおっ」と膝を叩いた経験…

隅田川右岸

グラスに大ぶりに盛られたイチゴ・パフェを、三好くんは携帯電話で撮影した。 食事のために給された料理を撮影するなど、はしたない行為だと思っている私は、彼の行為を訝しみつつ眺めた。食事の前に手を合わせることぐらいできないのだろうか。フランスに留…

令和ノ疫 葛飾篇

蟄居 五日目の流行病はやりやまいの癒ゆる頃パイプ煙草をひそと吸いにき 東京に大き禍わざわい来し春に友と向かいてパフェを食いたり かの夜に我と病を得し君の電話の声は余所者よそものの声 都庁より送り届きし食料うちさぽは戦時に於ける配給に似て 三箱の…

街角の歌声

友がみな我よりえらく見える日は作者:上原隆幻冬舎Amazon 心配ないからね 君の想いが 誰かにとどく 明日がきっとある どんなに困難で くじけそうでも 信じることを 決してやめないで KAN「愛は勝つ」 上原隆の名前を知ったのは、肥沼和之『フリーライターと…

食卓の闘争

昔は何を食べても、何を飲んでも、頑丈な胃袋で、そのおかげでここまで立派な体躯に成長した。「君は食うのも、飲むのも、両方イケる口だからな」と、二十代半ばに勤めた出版社の社長に言われた。「鎌倉文士は手酌主義だ」白樺派の嫡流を自認する、その社長…

CITY WRITER

バーテンさん www.youtube.com ワンフィンガーで飲やるもよし。ツーフィンガーで飲やるもよし1。 村松友視が1987年に出演したサントリーのCMの宣伝文コピーである。このCMにはいくつかのヴァリエーションがあって、割烹、屋台、バーを舞台にしているが、ここ…

白色確定申告の苦しみ

今年の1月4日に文士ライターとして開業してから、もうすぐ1ヶ月がたつ。個人事業主フリーランスになってやるべきことは何か? そう、確定申告。そのために帳簿をつけることである。一口に確定申告と言っても、青色と白色があるが、私は後者を選択した。言わ…

Journalist contra Documentalist

川端康成は短編集『愛する人達』の中の一篇で、「吹けば飛ぶような雑誌記者」という旨の文章を書いた。実は一言一句、正確に覚えていないので、この引用は正しくないかもしれないが、とにかく、雑誌記者を蔑なみするような描写をしている。その主体〈私〉は…

A midnight summer of Kitasenju 2019

北千住駅西口。午前2時。私は歩道橋の手すりに凭れ掛かりながら、マッチでHOPEに火を着けて一服した。煙草とそれに加味された香料の華やかな風味が口の中に拡がる。太巻の力強い紫煙の行方を目で追いながら、私は首都 東京の静寂と喧騒を聞いていた。レム睡…