Entries from 2022-10-01 to 1 month

炬燵の資本論

居間に炬燵こたつを敷いた。およそ5年ぶりのことである。私が幼少の頃、私たち家族は、椅子と食卓テーブルで暮らしていた。80年代から90年代のことである。一方、居間には卓袱台ちゃぶだいらしきものがあり、そこに座布団を敷いていたが、食事の際はいつも、…

TankaWriter

最近、短歌を詠んで(読んで)いない。 文章を書く量、アウトプットの総量は増大しているし、毎日、文語訳『聖書』を読んで、以前に比べて、古語に慣れているのに、それでも書けない(書かない)。 してみると、短歌が私にとって本当にふさわしい文芸なのか…

言葉の抽斗

中村真一郎は作家になりたいと公言したとき、彼の叔父は次のように助言した。「君が作家になりたければ、机の抽斗ひきだしいっぱいに原稿を書き溜めなければならない」 また、ある先輩作家は次のように話した。「君が作家デビューを果たす頃には、ミカン箱一…

社会の再生

18時に布団に入り、21時に布団から出る。仮眠としては少し寝すぎたくらいだ。近所の自動販売機でMONSTERを買い、ぐびりと一杯やる。昨今、エナジードリンクについてはいろいろと言われているが、起きがけの清涼飲料水はなかなかいいものだ。 昨夜、福音よき…

シガレットの色気

煙草を嗜んで、3年が過ぎた。初めて吸った紙巻はHOPEで、会社帰りの終電を逃した時、北千住の歩道橋で夜のビル群を眺めながら一服したのであった。その後、パイプに手を出すまで、1年とかからなかった。 確かに、私は愛煙家には違いないが、ヘビースモーカー…

HandWriting

過労気味である。週5日、施設で介護をやり、残りの1日、2日に訪問介護をぶち込んだのがいけなかった。夜勤さえなければ大丈夫だろうと高をくくったが良くなかったのである。 思えば、介護に限らず、新聞屋でミニコミ紙のライターを週6日、7日、ぶっ通しで働…

世を愛し世を憎む

『聖書』の四つの『福音書』のうちで、私は圧倒的に『ヨハネ伝福音書』が好きである。次の一節を読むと、私は静謐な喜びを覚える。 それ神はその獨子を賜ふほどに世を愛し給へり、すべて彼を信ずる者の亡びずして、永遠の生命を得んためなり。神その子を世に…

わたしとぼくのゲーム理論

「少し、席を外そうか」 別室に移動すると、私はポケットから退職届を取り出し、テーブルの上に置いた。一瞬、上司は嫌な顔をした。 「行動があまりに衝動的すぎますよね」そして、続けた。「先日、話し合いをしたばかりなのに」 「**さんには不義理を働い…

否定の意志

退職届を書いた。 これを今日、上司に提出すれば、来年の私の生活は一変すると言っても過言ではない。 4年間勤め上げた会社だが、今では一介のアルバイトに過ぎない。決意、と言っても大げさかもしれないが、私のささやかなそれは退職ではなくて、来年の仕事…

ものごころ憑きし頃

私に正確な古文の知識はない。しかし、「ものごころ」が昂じると、やがて「ものぐるおし」という感情になると思う。本当に物に狂っているのである。 物には人を狂わせる魔力がある。本、酒、女、煙草、文具……そういう奢侈品、嗜好品に私は今まで狂ってきた。…

転職に次ぐ天職

鬱である。 このままだと会社と取り決めた、年度末まで勤め上げるのが難しくなるかもしれない。このまま無理に働いても、休職になるのがオチである。しかも、持病を悪化させるという代償もともなう。それならば、さっさと介護の仕事から足を洗ってしまって、…

幸運ヲ祈ル

「あなたは大学を出ているのに、それを少しも鼻にかけない。あなたは真面目に仕事をしている」 昨日、お客さんに言われた言葉だが、これに先立って、こんな会話のやり取りがあった。 「**さん、私、もうすぐこの仕事を辞めてしまいます。もと居た出版に帰…

文筆と活動

以前、勤めていた所のお客さんから手紙をもらった。異動する時の去り際に、私から手紙を寄せて、だいぶ日にちが経つので、もはや返事は期待していなかったのだが、昨夜、郵便受けを開けてみると、一通の葉書が入っていたので、望外の喜びである。 昔、出版社…

大隈を見ゆ

昨夜、友人と酒を酌みながら話していると、彼の目の下に黒々とした隈があることに気づいた。 「目の下に大きな隈があるよ」 「そんな馬鹿な」彼は携帯電話のインカメラを起動して、自身の顔を覗いた。「本当だ。普段、あんまり隈とかできないんだけどな」 「…

燃えつき症候群

昔、ハローワークの職業訓練で、介護初任者研修を受講したとき、講義の最初の方で印象に残ったことがある。 燃えつき症候群——。医療職、福祉職に多いとされる。感情労働がメインのやりがいのある仕事を身を粉にして、延々と取り組んだ結果、当人が燃え尽きた…

学徒復員

今日ないし明日、進退を決める。 2年前位から、会社を辞める、辞めないで、ぐずぐずしていた私を、様々な策で引き留めてくれた上司には、そこに経営的な思惑が働いていたにせよ、感謝しなければならない。 ただ、コロナ禍の影響もあると思うが、この数年間の…

日記を燃やす

作家には二つのタイプがある。日記を書く人と書かない人である。 吉行淳之介は最初の妻の日記を「俺は日記を書かない」という理由で、焚火にくべてしまった。彼はこの文学の形式を憎んでいた。 一方、辻邦生は、作家として認められる前の、彼の文学修業の消…

TSUKIJI 2016

「兼子くん、作家と編集者は両立しないからね」 当時、『小説TRIPPER』の池谷真吾編集長は、年末の納会の席で私に釘を刺した。 書籍編集者は苛酷な仕事である。本の売上はもちろん、内容に致命的なミスがあれば責任を問われるし、自身の仕事の領分を潔く弁え…

135ml

「眠れないんですよ」 睡眠薬が効かなくて気落ちしている私に、先生は次のように言った。 「これぐらい小さな缶ビールがあるでしょう。あれを1本飲むといいんです。薬が程よくまわってきますから」 内科の先生だった。私に初めて睡眠薬を処方してくれた先生…