ものごころ憑きし頃

私に正確な古文の知識はない。しかし、「ものごころ」が昂じると、やがて「ものぐるおし」という感情になると思う。本当に物に狂っているのである。

物には人を狂わせる魔力がある。本、酒、女、煙草、文具……そういう奢侈品、嗜好品に私は今まで狂ってきた。物心とは物を求める心、物を愛でる心である。それが激しくなる、抑え切れなくなる、常軌を逸するから、人は物狂おしくなるのである。

なので、物心が憑く年頃というのは、思春期よりもやや早いような気がする。私の場合、小学校低学年の頃からすでに始まっていた。物を求めるためには手段を選ばない、のではなく、やはり、効率的な手段を考えなければならない。自然、頭を働かせることになる。他人とは違う自分の趣味、嗜好を自覚する。自意識が芽生えるのだ。子供は大人が思っている以上に頭がいいのである。

しかし、思春期は危機の時である。体の変化に合わせて、心が変化するのは当然である。本当に恋をする。若者は皆、物狂おしいのである。

宮田雄吾『14歳からの精神医学:心の病気ってなんだろう』は、思春期を生きる若者の心と体の悩みに優しく答えている。たとえば、不登校の陰に適応障害が潜んでいる場合がある。宮田氏は次のように諭す。

君が適応障害になったからといって、別に君のすべてがダメになったわけではない。不登校は、「今の君」が「今の学校」と合わなかっただけなんだ。14歳の君はまだどんどん成長するし、君が大人になった時に生きていく「社会」は、「学校」と比べるといろいろな人を受け止めることができる1

人は大人になると、学校を出ていく2。その際、不思議な開放感を味わうのではないか。社会は窮屈に違いないが、一方で、茫漠かつ広大である。学校はあくまで社会という荒野で生きていく為の準備と訓練をする場に過ぎない。

もう一つ言うならば、君の日常を変化させるために大切なのは、心の内側の変化ではない。心の外側、つまり行動の変化だ。行動を変えれば結果が変わる。要するに、君がどんなにつらくても、行動をくずさなければ、人生はくずれないんだ。そのことは知っておいてほしい3

真理は一つである。それは年齢を超越している。宮田氏の言葉は、仕事と持病に悩む35歳の私の心に響いたのである。


  1. 宮田雄吾『14歳からの精神医学:心の病気ってなんだろう』(日本評論社、2021年、新版)149頁。

  2. 老年になって再び学校で学び直すことがあるが、それはここでは措いておく。

  3. 前掲書、233頁。