学徒復員

今日ないし明日、進退を決める。

2年前位から、会社を辞める、辞めないで、ぐずぐずしていた私を、様々な策で引き留めてくれた上司には、そこに経営的な思惑が働いていたにせよ、感謝しなければならない。

ただ、コロナ禍の影響もあると思うが、この数年間の私は、人間の絆あるいは情に引っ張られて、思い切りのよさが失われてしまったのは事実である。介護という、とりあえず食い扶持に困らない(と言われている)仕事をすることで、保守的になっていたのかもしれないし、そこに矜持プライドがあるとはいえ、やはり、慢心していたのかもしれない。

今回の決断は、私が進んで福祉のキャリアを放棄し、それに代わって、文筆の、出版のキャリアを選択したことに拠る。今後の人生において、私は広い意味で福祉に携わることがあるかもしれないが、介護は二度とやらない。この仕事を始めた時にすでに気づいていたけれど、この奴隷労働は私の人間性をひどく損なうのだ。手遅れになる前に早めに身を引かなければならない。「芸術は長く人生は短し」という諺があるが、介護の技術は私の人生よりも長持ちしなかったのである。それは私の生業ではなかった。ただそれだけのことだ。

今までのキャリアを台無しにして、今後、文筆業、出版業を新たに始めることは、大きな困難を伴うだろう。ときどき愚痴を、弱音を吐きたくなっても、それを人前に曝してはならない。一度、兵隊に取られた人間は強い。——もはや戦後でない、平和と繫栄を享けた人々には分からないかもしれないが、これは真実なように思われる。復員学徒の気持で仕事と勉強に取り組みたい。