BOOKMAN

TAKASHI KANEKO

大隈を見ゆ

昨夜、友人と酒を酌みながら話していると、彼の目の下に黒々とした隈があることに気づいた。

「目の下に大きな隈があるよ」

「そんな馬鹿な」彼は携帯電話のインカメラを起動して、自身の顔を覗いた。「本当だ。普段、あんまり隈とかできないんだけどな」

「疲れているんじゃないの。自分が思っている以上に」私は卓上のウイスキーの瓶をじっと眺めた。酒は疲労回復に効果があるのか? それとも逆効果なのか? 血行を促進するならば隈の解消の役に立つだろう。しかし、アルコールは薬であると同時に毒でもある。脱水症状になるので、かえって血流は滞るのではないか。——そんな漠然としたことを、私は3時間睡眠の寝ぼけた頭で考えていた。


疲れていた、のだと思う。

最近は自分の職業を罵ることが多く、全体的に愚痴っぽく、弱音を吐くことが多くなった。私が自分の職業を蔑するのは、それだけ合理的な、まともな理由があるのだけれども、今、自分が現役で働いている最中にそれを行うのは、自分を傷つけていることだと気づいた。

鬱になっていた、のだと思う。

今年の1月から私は訪問介護と施設の介護の2足のわらじを履いていたのだけれども、これが体と心に良くなかったらしい。経済的に困窮するのを心配して、老人ホームの勤務の合間に訪問介護の予定を詰め込んだら、休日がほとんど消えた。しかも、訪問介護は移動時間に多く取られるので、時給換算にすると、本当に割に合わない。働けども働けども貧しきままなり——。私が介護の仕事を呪詛するのは当然の帰結である。

これからは意識的に休日を作る努力をし、その日は主に読書と執筆と取材に当てよう。なんだ、結局、働いているじゃないか、と言われそうだが、厭わしい介護と違い、好きな文学をしている時、私は疲れないのである。むしろ、ますます元気になる。饒舌になる。天職を見付けるポイントはここにあるのかもしれない。