吉田満『戦艦大和ノ最期』に、士官たち、殊に若者たちが、戦闘前に絶望的な気持を少しでも持ち上げようとして、ポケットウイスキーを呷る場面がある。
英国海軍には士官がウイスキーとジンを嗜む伝統があるが、彼等を模範に創られた大日本帝国海軍にもこの伝統が脈々と受け継がれたことは想像に難くない。「鬼畜米英」などは一過性のスローガンに過ぎず、日本の海軍軍人はその本質において、英国を深く愛していた。
イングランドにおいて、ジンは労働者の安酒であり、ワインは紳士の上物であるとされた。それでもなお、海軍は酒保にジンを常備し、マティーニ、ギムレット、ジントニックなどのカクテルを開発したのだから、これには本音が垣間見れるような気がする。つまり、海軍士官は紳士ではない。心情的には労働者に近かったのではないか、と思う。