Microsoftの共同創業者の一人、ビル・ゲイツは意識的に〈ハードコア〉と呼ばれる生活を送っていたらしい。それはコーラをがぶ飲みしながら、昼夜かまわず仕事を続ける。疲れたら寝る。ある意味でシンプルな生活である。朝、彼の秘書は目撃している。「たいへんです。ゲイツさんが床に倒れているんです」「また徹夜で仕事をしたんでしょう。大丈夫ですよ。寝ているだけです」「でも、来客ですよ」「不在にしていると言ってください。あながち嘘ではないでしょう」彼も大方の経営者の例にもれず、日曜祝日関係なく働いた。しかも、そのワークスタイルを他の社員にも強いたから大変だった。
日本マイクロソフトは〈働き方改革〉の一環として、週休3日制度を試験的に導入したらしいが、本来のMicrosoftはワーカホリックを奨励するような会社だった。おそらく、そうしなければ、社員も会社も生き残ることはできなかっただろう。この点に関しては次の本が詳しい。
- 作者:G パスカル ザカリー
- 出版社/メーカー: 日経BP
- 発売日: 2013/11/20
- メディア: Kindle版
パーソナル・コンピューターを黎明期から牽引した会社としては、Microsoft、Apple、IBM、FSFなどがあるし、個人としては、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、リチャード・ストールマン、リーナス・トーバルズなど枚挙に暇ない。でも、この中でいちばん人間的に興味深いのは、ビル・ゲイツだ。彼は市場を支配するためには手段を選ばなかった。そのためには普遍的な製品を作らなければならない。彼の事業はマイコン用にBASICを開発することから始まった。その後、他社からDOSを格安で購入して、IBM-PCにプリインストールして販売した。それでも、市場を支配するためには十分ではなかった。独自にOSを開発する必要があった。Windowsである。Word、Excelなどのアプリケーションの売上を伸ばすためには、MicrosoftはOSを支配する必要があった。
ビル・ゲイツの性格は、Microsoftという会社と、Windowsという製品に驚くべきほど反映しているように見える。それらは私たちの生活に当たり前に浸透しているけれど、本当は非常に個性的なものなのだ。まず、目的のためなら手段を選ばない。たとえば、Windows10はWindows Subsystem for Linuxという機能を実装している。WindowsでLinuxを動かすことで、オープンソースのさまざまなアプリケーションを実行できるのである。これは私も愛用している。プログラマーがWindowsを離れて、UNIX(macOSなど)やLinux(Debianなど)に流れることを防ぐのに一役かっている。かつては、ゲイツも、Microsoftも、フリーソフトウェアのLinuxを毛嫌いしていたのに。節操がないというか、こだわりがないというか……そう、こだわらないことも魅力のひとつなのだ。たとえばMacintosh。スティーブ・ジョブズのこだわりが詰まったコンピューターだ。しかし、私は使いにくく感じる。「パソコンはこういうふうに使いなさい」とジョブズが指図してくるような気がする。ユーザーがカスタマイズしにくいのだ。それに比べて、Windowsの使い方は完全にユーザーにゆだねられている感がある(それでも、最近のMicrosoftはAppleの方向に近づいている。Surfaceはその一例である)。私はジョブズの美意識よりも、ゲイツのこだわりのなさの方が好もしいのだ。自分の性格に近いような感じもする。それは「優しさ」と言い換えることができるのではないか。さっきまで、支配などと穏やかならぬ言葉を連呼していたが、主人に優しさはつきものではないだろうか。いま、ゲイツはMicrosoftのCEOを退いて、Bill & Melinda Gates Foundationで慈善活動に勤しんでいる。その活動内容はブログで公開しているので、興味のある方は一読されたし。
私もビル・ゲイツを見習って、いつでもどこでも仕事して、いつでもどこでも眠りたいものだ。こだわりを捨てることは、私が次の段階に進むためには絶対に必要なことなのだ。夜勤明けは眠れないなんて弱音を吐いている場合ではない。30代は仕事ざかりだ。ワーカホリック、どんとこい。がんばらなくっちゃ。