茶と香

禁酒2日目。酒の代わりになるものを、あれこれと探したあげく、緑茶に辿り着いた。衆知のとおり、緑茶にはカフェインが含まれているので、夜、寝る前に飲むには不適切かと思われるかもしれないけれど、急須で淹れた温かい煎茶を飲むと、案外、よく眠れるのである。一説には、緑茶に含まれる、テアニンというアミノ酸の一種が神経の興奮を鎮めて、心地よい眠りをもたらすそうだが、単純な化学的な要因に尽きずに、お茶の味、香、温度、雰囲気などが総合的に作用して、私の荒んだ神経に落ち着きを与えてくれるのだろう。私は今まで左党ないし珈琲党で鳴らしていたが(目覚めに煎茶を淹れるのは年寄の習慣だと思っていた)、意外にお茶と相性がよかったのは思わぬ発見であった。今後、緑茶に限らず、紅茶、花茶、烏龍茶、プーアル茶など、さまざまな茶葉を試してみたい。それに、私にはもともと香の嗜みがある。書斎で線香を立てて、茶を一喫していると、中国の文人になった気分になる。

禁酒をしたことで、肉体は健康になったけれども(消化器が著しく良くなった。私の腸壁はアルコールで爛れていたのだ)、肝心の精神の方は大して健康にならなかった。依然、抑鬱に悩まされている。躁鬱病は私の宿痾だと観念して、毎日寝る前に、抗精神病薬 ジプレキサ 2.5mg 1Tを飲むことにした。昨夜、久しぶりに飲んでみたけど、早朝の過眠、日中の傾眠もなく、マイルドに効いている感じだ。適度に飲酒欲求も抑制されるだろう。薬を飲むことで、以前は際限なく思われていた活動が制限されてしまうけれど1、生きるためにはそれも仕方ない。別の所に意識を向けて、そこに自由を見つけるしかないのだ。


  1. ケイ・ジャミソン(田中啓子/訳)『躁うつ病を生きる:わたしはこの残酷で魅惑的な病気を愛せるか?』新曜社、1998年に、服薬に対する患者のジレンマが描かれている(例えば炭酸リチウム)。躁鬱病者は自分が薬を飲むという事実をなかなか受け入れられない。薬を飲むことによって、彼/彼女は自由の翼を奪われたと感じるからだ。