BOOKMAN

TAKASHI KANEKO

立ち上る自信

私は34歳である。中年である。しかし、年甲斐もなく、新しい職場では、(年齢、役職を含めて)目上の人達から、ことごとく「兼子くん」と呼ばれている。まるで子供扱いではないか、と憤りたくなる時もあるが、実際、見た目も、気持ちも若いのだろう。男は三十代になると、普通、結婚したり、家を購入したりして、身を固めるけれど(それはほとんど終身雇用制を前提にしている)、私の場合、絶えず新しいことに挑戦している。自分の才能、可能性を試している。そして、独立自尊の気概がある。そのためには結婚を目的にしてはいられない、というのが実情ではないか(恋愛はするに越したことはないが)。私は職場の同僚、行きつけの酒場バー支配人マスターから、ピーターパン症候群シンドロームと、からかいながら言われたが、青春を謳歌し続けるには、相当の犠牲と覚悟が必要なのだ。

職場が、東京都足立区から千葉県松戸市に替わって、1ヶ月半が経つが、ようやく慣れてきた。私よりも10歳以上年下の同僚はドライブに誘ってくれるし(東京と違って、千葉では自動車通勤が多いのだ)、還暦を過ぎた同僚は立ち飲み、あるいは宅飲みに誘ってくれる。皆、それぞれ事情があって、好きでもない介護の仕事をしているので、流れものに優しいのかもしれない。しかし、それ以上に、人間関係よりも大切なことは、仕事をしている最中に「これは行ける」という感触を掴んだことだ。それは客観的な仕事ぶり、仕事の成果に現れると同時に、それを見つめる顧客の、上司の、同僚の眼差しに、確かに、静かに現れる。そして、その自信は、私の肩から、足どりから、口吻から如実に現れるのだろう。「私はここでやっていける」と。