昔、老人ホームの介護福祉士を辞めて、記者として仕事を始める時、大学の先輩に不意に言われた。
「それじゃあ、兼子くんは自分の狂気と向き合うんだね」
最初は何のことかと思ったが、文学者と新聞記者の仕事の性質の違いを、ここまで見事に言い当てた言はない。その人はプログラマをしていて、文学的には無知だと思っていたから、人間は分からないものである。
狂気に向き合う。絶えず狂気には曝されているけど、それときちんと向き合っていない。それが私の生活の実情である。
40歳、あるいは45歳を過ぎたら、私は自身の狂気と正面から向き合おう。つまり、小説家として修業をするということである。