夏の隠遁

当今の流行病はやりやまいは、私の仕事場所 山谷にも静かに、確かに拡がっているので、その間は炊き出しも取材もできない。この期に及ぶまで私は、新型コロナが私のライター活動を邪魔するとはゆめにも思わなかった。個人と社会のあらゆる障壁ボーダーを突破することが私のライターとしての使命だと考えていたのに。実はこの理想はまさしく開高健のもので、彼は特にルポルタージュを書く際にそのことを自覚していたのである。やはり、彼は偉大な作家だと感得させられる。今の私は彼の靴の紐を解く値打もない。

取材に行くことを制限されているので、この間、私は本を読むことにしている。今、もっとも精力的に読んでいるのは、ロバート・D・パットナム、デヴィッド・E・キャンベル『アメリカの恩寵:宗教はいかに社会を分かち、結びつけるのか』(柏書房、2019年)。社会資本ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)で有名な、パットナムの最新刊だが、本書ではその概念は使用していない。彼はアメリカというヨーロッパに比べて遥かに信心深く、それでいて寛容な個人と社会がいかに形成されてきたのかを明らかにする。パットナムの結論によると、現代のアメリカの若年層は、親の宗教/無宗教と無関係に、個人主義的に自身の信仰を選び取るらしい。しかも、その選好には明らかにその人の政治的志向が反映されているというのだ。——初めに政治ありき。本書は硬派な社会科学の研究書でありながら、時折、ルポルタージュもはさむことにより、物語の面白さも備えている。自身の思想/良心を再考させられる一冊である。