ショートスリーパー

最近は日付が変わる頃に寝て、3時か4時くらいに起きている。ショートスリーパーを気取っている訳ではない。原因は分かっている。抗精神病薬のアリピプラゾール(エビリファイ)の抗鬱作用が引き金になって、早朝覚醒を促しているのだ。例えば同じ抗精神病薬でも、以前処方されていたオランザピン(ジプレキサ)は鎮静作用、抗躁作用が強く、就寝前に飲むと、正午過ぎまで昏々と眠り続けることができる。精神疾患の治療において採るべきアプローチは大きく二つに分かれると思う。精神病理学と精神薬理学である。前者は患者の病気に対する向き合い方、生き方の問題を看るのに対し、後者は患者の薬物に対する反応を看る。精神病理学はカール・ヤスパースを祖とするので、現象学的アプローチと呼ばれ、実存哲学をかじったことのある私は、そちらに対して共感シンパシーを感じるのだが、現実の治療過程においては薬理学に負う所があまりにも大きい。さすがに私は薬学には不案内なのだが(その点、薬剤師の私の妹に及ばない)、薬、特に新薬が患者の人生を劇的に変えることは往々にして見られることだと思っている。アリピプラゾールを飲むことで、私の人生は変わった。オランザピンを飲んでいた頃の私は休眠モードに入っていたが、新薬のアリピプラゾールを飲み始めると、私の人生は急激に戦闘モードに移行した。この薬がなければ、老人ホームの常勤職を投げうち、個人事業主フリーランスのライターになることはなかっただろう。富野由悠季によると、かの手塚治虫は5時間にして寝過ぎの体になったらしいが、創作面はともかく、睡眠相に関して言えば、私も手塚先生とタイマンを張れるようになった訳だ。

サミュエル・ベケットの『モロイ』の一節を思い出す。「今は安らかに眠っているが、君にもやがて眠れない夜が来るだろう」