夕方、会社を出ると、野田さんはビルの軒下に隠れて、四谷三丁目の雪景色を見ていた。「すげえ、降っているな。登山靴で来れば良かった」
私達は寒さに震えながら、うつむき加減で、新宿通りを四ツ谷駅に向かって歩いた。傘を持ち合わせない私に野田さんは「大丈夫か? 濡れちまうぞ」と声を掛けた。「大丈夫です。鞄の中の本が濡れなければいいんです」
「さっき、林さんから『鈴』と書かれたメールが着たんだけど」野田さんは風に煽られた傘を懸命に掴みながら言った。「こちらは『傳』と返せばいいんですかね」「よし、『鈴傳』に行くか。俺達は雪が降っても酒を飲むんだ」
角打ち 鈴傳に入ると、私達は安心した。酒場特有の人々の熱気が私達を包んだ。