LondonDryGin

ひと仕事終えて、手持無沙汰にしている私に、H女史はタイピングの手を休めて言った。「そういえば、兼子さんって、何歳でしたっけ?」

「35、今年36歳です。Hさんはたしか……32歳ですよね。2年前の夜勤中に30歳の誕生日を迎えたことを覚えていましたから」

「ああ、4つ違うんですね。30代の2年間って、あっという間に過ぎますね」

私にはさまざまな情報を総合して、人の年齢、特に女性の年齢を言い当てる嫌な趣味がある。心の中に留めて置けばいいのに、それを本人の前で口に出してしまうのだ。諜報機関の密偵スパイではないんだから、そういう露悪趣味はやめた方が身のためだろう。私の人生を生きにくくしている。しかし、面白くもしている。

夕方、NHKで連続テレビ小説『ひまわり』を再放送している。私の家にはテレビがないので、職場でチラチラ見ているのだが、若き松嶋菜々子が出ていて懐かしくもある。主題歌の山下達郎の「DREAMING GIRL」がいい。「DREAMING GIRL、DREAMING GIRL、雨上がりの少女〽」と口ずさみながら働いている。私が黙々と働くのは稀である。

帰りに酒場でイッパイひっかけたくなったが、時間と金が惜しい、なによりも眠かったので、まっすぐ家に帰った。寝酒にBEEFEATERをトワイスアップで飲む。割り水にこだわりはない。金町の水道水でいい。最近、サントリーのすいなどのJapanese Craft Ginが流行っていて、緑茶、生姜などの珍しい材料を使い、これはこれで美味しいが、やっぱり、私はLondon Dry Ginが好きである。伝統に磨かれた純粋な味わいがある。ロンドン市民はこの安酒を飲みながら、戦争、貧困、疫病など、人類に幾度も降りかかる災禍に耐えてきたのだ。その不屈の精神スピリッツを思いながら、酒浸りになる夜も悪くない。