バーテンダーをしていると、「普段、何を飲んでいるのですか?」と訊かれることが多い。その際、私は包み隠さず、「サントリーホワイト」と答えるようにしている。シングルモルトを中心に飲んでいるお客様の中には、驚かれる方も多いようだ。
確かに、銀座でバーテンダーをしていると、サントリーホワイトは少々(可也)肩身が狭い。同社の角以下の安酒で、同僚からは「舌が荒れる」「味覚が乱れる」とさえ言われたりする。しかし、通称「シロ」ないし「白札」は、サントリーが1929年に発売した最初のウイスキーで、開発には、鳥井信治郎、竹鶴政孝が関わっている、日本のウイスキー史上、記念すべき一本である。
と、御託を宣べることは簡単だが、普段、銀座で高級酒を売っている身としては、自宅で自然体に飲む酒としては、これぐらいが丁度いいのである。気を遣わなくて済むというのもあるし。アルコール度数40%で甘口かつスパイシーな嗜好も私に合っている。
普段、飲む銘酒が安価なことは大事で、ホワイトがウイスキーの中でも底値で、しかも手に入りやすいことは、私が焼酎や日本酒などの他の宗教(?)に行かないことの防波堤になっている。ホワイトを飲んで、私はウイスキーの酒徒として育ったと言っても過言ではない。
そもそも、私はホワイトに自分のウイスキーを計る基準を託している所がある。基準は天井にあるよりも地面に近い方がいい。サントリーホワイトを飲むことは、私の人生哲学を表現していると言っても過言ではない。