荷風の遺産

職場でキーボードを敲いていると、私達の会社を担当している保険のお姉さんが近づいてきた。 「貯蓄・投資に興味があると聞きましたけど、30年積み立てて、満期が来て受け取れる個人年金があるんですけど、いかがですか?」 「30年積み立てるとすると、私が…

木枯らしと紅茶

午前2時に目を覚める。スーツを着たまま寝ていた。身体が冷えている。不意に紅茶が飲みたくなった。近所のセブン・イレブンに出かける。道すがら神社の前では木枯らしが吹いていた。 セブン・イレブンでは私よりも若い、20代後半のメガネを掛けた女性が夜勤…

得意と苦手

「兼子くん、苦手なことは無理してやらなくてもいいのよ」 介護付き有料老人ホームの看護師が、介護業務に四苦八苦する私を見かねて、休憩時間に掛けてくれた言葉だ。 それから、約1年後、訪問介護の利用者宅の床の一角を拭き忘れた廉で、電話で問い糺されて…

Legend

国際福祉機器展(H.C.R.2023)が閉幕した。最終日、「シルバー新報」と「月刊ケアマネジメント」のブースに、前編集長の川名佐貴子さんが訪問し、私たち編集部員を激励してくれた。 川名さんは同紙の発行部数を大きく伸ばした方で、現在はフリーランスの福祉…

認識論的誤謬

今週の『シルバー新報』で、認知症の妻を介護した俳人へのインタビューを掲載した。編集長はゲラを読むと、「やっぱり、専門の人が書くと違うわね。まるで『智恵子抄』だわ」と、珍しく褒めてくれた。この仕事に関しては、少しも力まずに大胆な記事を書けた…

編集記者

午前1時。夢で企画のことを考えながら起きる。ようやく編集記者ジャーナリストらしくなったじゃないか、と感慨深くなる。私にとって文学者ライターは芸術家だが、編集記者は完全に職人である。最初はこの業を気乗りせず、嫌々やっていたが、近頃はなんだか楽…

Nominication

業界新聞に転職すると、酒を飲む機会が多いことに気づく。夕方になると、皆そわそわしてくる。「人々は乾く」。 私は社交が文明の進歩を促すという福澤諭吉と同じ立場に立つので(その点、孤独は個人が担うべき十字架である)、酒を飲み、社交が華やぐことに…

物自体

この頃は読書と執筆のモチベーションが下がってしまって、机の前に坐るのも億劫なほどである。ここでひとつウイスキーを生きで飲んで奮起してみる。TINCUPという、前職の老人ホームの同僚から貰ったアメリカン・ウイスキーだ。華やかなのに落ち着いた味であ…

Galileo Galilei

午前1時起床。睡眠時間が少ないことに閉口しているが、もう、これでいいような気がする。この時間に起きて、会社とは関係ないブログなどの文章を書いている。ある意味で生産的な時間だ。文章を書くことが生産的な行為と仮定した場合の話だが、私は今、勤め人…

書き抜く

「シルバー新報」の増刊特集号が校了を迎えている。この1週間、自分でもよく書き抜いたなと思う。特に誉めることはしないし、特別にシャンパンを開けることもないが、去年まで老人ホームでケアワーカーとして働いていた男が、介護の業界新聞とはいえ、ジャー…

こま切れ

21時に寝て、22時30分に起きる。睡眠時間1時間半。眠気がないと嘘になるが、机に向かい珈琲を飲みつつ原稿を書き始める。こういう「眠れぬ夜」は睡眠薬などを飲むのは愚の骨頂で、むしろ、読書や執筆を強いて行うことで、自然な眠りを誘うのである。しかし、…

早く遅く

週末、会社の仕事を家に持ってきたが、結局、ほとんど手につかず、進まなかった。 私は会社の仕事は会社の仕事、個人の仕事は個人の仕事。「カエサルのものはカエサルのもの、神のものは神のもの」。おそらく、15年以上社会人をやっている経験上、会社の仕事…

ストライキ

午前1時に起きる。中途覚醒と言えば、まさしくそのとおりだが、この一人きりの夜の時間をいかに豊かに使うかが、今後の私の成功に関わってくる。酒は飲まずに(飲んでも構わないが)、読書と執筆に充てよう。そして、朝方、眠ればいい。 会社から持ち帰った…

書き入れ時

山のような洗濯物を 腕を組みながら見ていた 恋人がほしいとここで 思っちゃいけない レンタルビデオは二日延滞 持ち帰ってきた仕事も スピルバーグみたいに最後は 奇跡をおこしたい 槇原敬之「SELF PORTRAIT」 この頃は珍しく忙しくしていて、週末、会社の…

重心の置き所

この頃、筆力がとみに落ちている。原因のひとつとして、私の取材の厚みが足りないのかもしれないが、それ以上に文章作成能力が落ちている。文体の凝集力が明らかに落ちているが、業界新聞の記事はそんなものは求めていないので、この点は心配しなくてもよい…

午後の懈怠

まったくやる気が起きない。体調不良で、この週末は、家に引き籠もっているのだが、その間、肉体的な不調と引き換えに精神的には安定していたので、抗精神病薬を飲むのを怠った。すると、どうだろう——脳内の神経細胞間のドパピン濃度が低下したのか、何事に…

修行僧

45歳になったら、ジャーナリストを引退して、再びフリーライターに転身したい。世間の、社会の情報を集めて、それを表すことに腐心するのではなくて、書くこと、自分の文章そのものに正面から向き合いたい。己のエゴイズムを見つめる——そのためにより自己中…

新聞記者

ようやく、新聞記者ジャーナリストとしてやっていく覚悟がついた。今の業界新聞社に就職して5ヶ月が経つから、ちょうどいい頃合いだ。 もちろん、私は文学者ライターであるけど、会社で働いている間は、その鳴りは潜めていようと思う。個人よりも組織優先、…

Chapel Champ 2023

8月26日、27日に立教大学のチャペル・キャンプに行った。 しかし、清里への鈍行列車の旅が身体に堪えたのか、その後、腰と背中を痛めて、今は療養中である(しかし、会社に行って仕事はしている)。 キャンプでは私は我がままを言って、『ソロモンの雅歌』の…

via media

朝4時。虫の音が聞こえる。秋の気配がする。サラリーマンになってから、生活リズムがすっかり朝方になった。学生の頃と同じ、否、それよりも規則正しいと言えるだろう。介護で夜勤をしていた頃、また、それに乗じて、時々夜遊びをしていた時分がいかに本来の…

狂気と向き合う

昔、老人ホームの介護福祉士ケアワーカーを辞めて、記者ライターとして仕事を始める時、大学の先輩に不意に言われた。 「それじゃあ、兼子くんは自分の狂気と向き合うんだね」 最初は何のことかと思ったが、文学者ライターと新聞記者ジャーナリストの仕事の…

私の修業時代

ある日の編集部の一コマ。 「兼子さんが以前、取材で迷惑をかけた作家さんがうちのTwitterをリツイート(これはもはや死語か)してくれましたよ」 と、隣の編集者のお姉さんが言った。 「それと、三浦綾子記念文学館もリツーイトしてくれている。この人、ク…

EarlyTimes

早朝でも室外機の轟音が鳴り響いている。これはここ10年、20年の間に訪れた大きな変化だと思う。昔は明け方はエアコンを消していたが、今では連日熱帯夜で、人々は窓を飽けることを忘れてしまったらしい。しかし、明け方の少し冷えた空気の中、読み書きをし…

因果な商売

昔、ミニコミ紙の記者をやっていた時、還暦を過ぎた同僚がふと漏らした一言がある。 「因果な商売だな」 記事を書くことは、人々の感情と利害が複雑に絡み合った過程を認識する作業である。その点、やはり、記者ジャーナリストは政治的な職業なのだろう。 し…

半端仕事

人づてに聞いたことだが、広告代理店出身の私の旧友が、この頃はタイミーなどのバイトアプリを使いながら、近隣のコンビニエンスストアを渡り歩いているらしい。昔、夢とか理想を語り合った友人が、今ではそんな半端仕事しかできない所まで堕ちてしまったこ…

であることとすること

記者のくせに原稿を書かない日がある。今日はそれにあたる日で、午前は校正などの編集作業に没頭して、午後は取材に出て、新しい記事ネタを探していた。こんな日は懸命に働いたけど、(本当の)仕事をしていないな、と思う。白紙のような一日だった。 その空…

金を稼ぐ学問

マンキュー入門経済学(第3版)作者:N・グレゴリー・マンキュー東洋経済新報社Amazon グレゴリー・マンキュー『マンキュー入門経済学』を読んでいる。 どうして、時間の合間を縫って経済学の勉強をするかというと、政治学を勉強していた頃の名残で、政治の…

寝汗

この所、寝汗がひどい。冷房を入れて、眠りに就き、夜半目覚めると、頭と首のまわりにじっとりと汗をかいている。ここ半年くらいで、かなり目立つ現象のような気がする。 原因はいくつか考えられる。まずはアルコール。寝る前に多少飲むので、それで身体が火…

タコの足を食う

ブログのネタがない、という問題がある。これは新聞のネタがない、と似た状況で、書くべき事実コトが見つからないということである。事件がない、あるいは、それを探す努力を怠っているのである。これは、寿司のネタがない、という状況にも例えることができ…

記者修業

まだまだ修業が足りない。作家修業ではない。記者としての修業、記者修業である。 取材対象との間合いの取り方が未だに分からない。こちらも仕事ビジネスであるから、相手に接近するだけが能ではなく、離脱すること、手放すこともするのだが、どうしても生来…